感想/クリスティアン・ツィマーマン演奏会2012

2015年12月22日

クリスティアン・ツィマーマン演奏会(所沢)忘れないうちに感想を書いておかねば。

12月8日(土)、所沢ミューズで行われたクリスティアン・ツィマーマンのリサイタルに出かけた。今年のラストコンサートだ。
ツィメルマンは、2009年の来日リサイタルも所沢ミューズで聴いた。所沢市が助成をしているのか、S席が7000円と、サントリーホールやオペラシティ等、都内のホールで開かれるリサイタルよりもチケット代がリーズナブル。シューボックス型の素敵なホールなので、私は所沢公演をおすすめします(ただし、周囲には気の効いたレストランがないので、アフターコンサートの楽しみは今ひとつ)。
下がプログラム。

ドビュッシー:
 版画
 1.パゴダ 2.グラナダの夕べ 3.雨の庭
ドビュッシー:
 前奏曲集 第1集 より
 2.帆 12.吟遊詩  6.雪の上の足跡 8.亜麻色の髪の乙女
 10.沈める寺 7.西風の見たもの
シマノフスキ:
 3つの前奏曲(「9つの前奏曲 作品1」より)
ブラームス:
 ピアノ・ソナタ 第2番 嬰へ短調 作品 2

今回のリサイタルはプログラム変更があった。チケットを購入した際は、もともとドビュッシーの練習曲全曲というプログラムだった。出かける前は「前奏曲よりも練習曲を聴いてみたかったのに」と思っていた。

また、ドビュッシーの前奏曲 第1集は12曲からなり、たいていのリサイタルでは全曲演奏される。今回はその中から6曲。こちらも出かける前は「全曲、演奏すればいいのに」と思っていた。しかも、曲の順序を2番→12番→6番と入れ替えている。まぁ、ツィメルマンクラスになると、深い意図があってこの順番にしたのだろう‥‥。

さて、本番。真っ白の髪のツィマーマンが登場。

ドビュッシーの前奏曲、実際に演奏を目の前にすると、比較的遅めのテンポで、一曲一曲が凄まじい集中力で「空間が作られていく」。ピアノを弾くというよりも、「ホール全体に音の空間を作っていく」という表現がふさわしい。

聴衆の集中力も高い。演奏する側も聴く側も、一曲にかける重力がハンパない。演奏に息を飲み、一曲を終えるごとにツィメルマンも聴衆も「ふぅ」という息を吐く声が聞こえた。この緊張感で12曲を聴くのはしんどい。6曲でも十分だった。

ただ、細かいところを言うと、「帆」や「亜麻色の髪の乙女」の“間”の味わい、彼独特のウィットに富んだ「吟遊詩人」は絶品だったが、「沈める寺」の低音が伸びず「あれ?」と思った。この曲は立体感が今ひとつ感じられなかった。

全プログラムの中で、一番よかったのは、シマノフスキの前奏曲。“素人”が弾くと、甘くロマンティックな「名曲アルバム」的演奏になりがちだが、音楽の奥の奥に秘められている深い情感が伝わってきた。

メインディッシュのブラームスのソナタは、その前のシマノフスキがあまりに逸品すぎて、まぁ、本当に素晴らしいのだけど印象が薄くなってしまった。

例のごとくアンコールはなし。期待を裏切らないリサイタルだった。

まぁ、一流のピアニストってのは、「ピアノを弾く」というよりも、ピアノという道具を使って、ホールに「一瞬の音空間を作る」という、インスタレーションの芸術家なんだな、と改めて思った。


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