会社の取締役退任と退職にあたり
来月、現在勤めている会社の役員を退任し、出向元の親会社も退職します。9年半、勤務しました。来週金曜、8月6日が最終出社日、来週は、業務引継ぎ&送別会の一週間です。
さて、私、40歳を過ぎてから、ピアノと仕事で二人の師匠に出会いました。
ピアノの金子勝子先生と、丹羽宇一郎中国大使、お二人の共通点は、70歳を過ぎてなお好奇心にあふれ、ポジティブな生き方をされているところ。お二人を前にすると、40代前半にして、ちょっと守りのライフスタイルに入っている自分を、いつも恥ずかしく思います。
先日、仕事の師匠・丹羽宇一郎さんの“最後の授業”がありました。
まず、丹羽宇一郎さんについて、簡単に紹介します。
丹羽さんは学生時代、名古屋大学自治会会長で60年安保闘争の学生運動のリーダー。卒業後、伊藤忠商事に入社。食料畑を歩まれ、1998年に代表取締役社長に就任されました。
当時、伊藤忠商事は多額の不良負債を抱え、倒産の瀬戸際に立っていたのですが、2000年に約4000億円に上る桁外れの不良債権を一括処理。翌年、2001年度決算で過去最高の705億円の黒字を計上するまでにV字回復させることに成功。ミラクルな経営者です。社長になった後も電車通勤を貫き、役員報酬返上で働いた清廉さでも知られます。
伊藤忠商事の会長就任後は、内閣府経済財政諮問会議議員を務め、そして今年、戦後初のサラリーマン出身の中国大使に就任されます。
商社マンは身体のデカイ男が多いのですが、丹羽さんは「小柄なおじいさん」。一番近いキャラクターは、映画『スターウォーズ』、ジェダイの長老ヨーダ。いつも全身からフォースを感じます。
さて、私はここ2年ほど、伊藤忠グループの関連会社の役員を務めております。丹羽さんは6年ほど前から、グループ会社の幹部向けに月に一度「経営塾」を開かれており、私も数年前、その末席に座る機会をいただきました。
密度の濃い、熱い塾ではあったのですが、この度、丹羽さんが中国大使に就任し、北京に赴任するにあたって塾を閉じることになり、先週、塾生全員を集めて「最後の授業」が開かれました。
1時間半にわたる講義は、経営だけでなく人生の核心をつくもので圧巻でした。
まず、講義の最初に結論をおっしゃいました。
「“資産は必ず劣化する”、これだけは頭に叩き込んでおきなさい」と。
そして「毎年、資産をレビューしなさい」と。
シャキっと目が覚めました。
ま、このブログで経営について話をしても面白くないので、家計に当てはめて説明しましょう。
主婦って、日々やりくりをしているので「損益」の感覚は抜群です。でも、「資産」に対する意識ってあまりなかったりするものです。
会社って、一年に一度、バランスシート(貸借対照表)により、資産を数字で評価します。本当は、家計もやった方がいいですね。ヒト・モノ・カネが経営の三要素ですが、不動産も子供も資産。ほったからしにすると必ず“劣化”しますから。
資産って大きければいいように思われがちですが、決してそんなことはない。小さな資産で大きな利益を生む会社もあれば、大きな資産で首を絞めている会社もあります。
大きな家は掃除をするのも大変ですが、小さな家なら数時間で掃除終了です。労賃×時間で考えても、大きな家はコスト高です。
家庭も同じで、大きな家に住んでも、夫婦が仲が悪ければ小さな幸せしか生みませんし、逆に小さな賃貸マンションに住んでも大きな幸せを生む家庭もあります。
社長は会社の資産を、部長は部の資産を常にレビューしなさい、と。
ヒトも資産だよ、評価をキチンとやりなさい。
人材も資産である限り、劣化するのです、と。
‥‥確かに、オレ自身、ここ数年劣化しているわ。嗚呼‥‥。
丹羽さんの口ぐせは「清く、正しく、美しく」。こうやって写真を見直すと、我々は、何となくスターウォーズのヨーダとジェダイの騎士たちのようにも見えます。
“最後の授業”の中で一番心に突き刺さったのは、「役員は会社のことを一番に考えなさい。それができないなら取締役の地位にしがみつくな」、という言葉でした。
私が役員退任と退職を決めた理由の一つが、まさにここ一年、会社のことを一番に考えられない自分がいたからです。
「仕事とプライベートのバランス」なんて言うのは簡単。20代、30代の“ペーペー”ならいいのです。丹羽さんも、「20代、30代前半は自分の仕事のことだけ考えていればいい」とおっしゃってました。
でも、30代後半から、責任のある仕事を持つと、絶対にどこかでギリギリの選択を問われるものだと思っています。人の命を預かる医師なんてそういう仕事ですね。
例えば、今年のショパコンASIAの全国大会は1月4日、仕事始めの日にありました(アマコンを平日の仕事始めの日に行うのは、そもそもどうかと思います)。この時期、実際、私は会社のトップであるにも関わらず、午前、有給休暇を取得しコンクールに参加して、午後から出社しました。でも、スタッフならともかく、役員が取るべき選択ではないな、と、ずっと心に小さなトゲが刺さっていました。
と、書いたら、猛烈サラリーマンのように思われますが、私のような平凡な人間に率いられた会社が、縮小する日本市場の中で生き残っていくには、働きぶりでカバーする以外ないのです。で、働きぶりでカバーできなくなってきたら‥‥。
ま、確かに「取締役の地位にしがみつくな」という師匠の教えは守ったけれど‥‥ジェダイの騎士にはなれそうにない‥‥最低限、ダークフォースに堕ちないようにせねば。
そういや、あるインタービュー記事の中で「努力する人間を社会は放っておかない」と言っておられました。
逆にいうと、拾ってもらえるかどうかは、努力のバロメーターかもしれません。
私は、伊藤忠グループでは“外様”であるにも関わらず、塾に関わらせていただいたり、ピアノも憧れの師匠に偶然拾っていただいたり‥‥才能はなくとも、光を当ててくれる人はいるものですね。幸運に対して、謙虚であらねば!と思います。
10年近く勤めた会社を辞めて、40代にしてリスタートするわけですが、今後の私に光を当てていただける人がいるかどうか、ここ数年間の働きぶりについて、今こそ審判が下る気がします。楽しみでもあり、不安でもあります‥‥。
最後に、講義のまとめは、中国大使として日本はどうあるべきか、について所信表明でした。
国力とは、経済力・軍事力・政治力からなる。
残念ながら、日本はもう中国に経済力と軍事力で上回ることはできない。
ただ、政治力は信頼により勝ち得ることができる。
金持ちの腕白小僧が、隣近所で尊敬を集めることができないね。
お金はなくても、ケンカに強くなくても、
品位と品格のある奴が、みんなから信頼を集めるじゃないか。
じゃ、品位と品格はどうやったら得られるのか?
それは「勉強」するしかないんだよ。
私は、明日、菅首相に会うけど、教育に力を入れなさいと申し入れます。
そんなこと、新聞もテレビも報道しないだろうけどね。
最後に、日本はね、品位と品格、Dignityだよ。
‥‥ジーンと来ました(感涙)。
舞台を中国に移したジェダイ長老の活躍を期待しています。
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