ピティナ・ステップで大崩落(後編)

2014年5月26日

昨夜遅くに家に帰ると、ステップの結果が宅急便で届いてた。

結果は不合格。ま、課題曲を最後まで弾き通せなかったのだから仕方ない。ピティナステップは、S・A・B・C・Dの五段階評価になってます。特優、優、良、可、不可みたいなものですね。で、三人のアドバイザー(ピアノ指導者)に一曲ずつ評価してもらえます。

評価は次の通り。

課題曲「バッハ/シンフォニア 変ロ長調」 → B・C・D
自由曲「ショパン/ノクターン 第一番 変ロ短調」 → S・S・S
課題曲と自由曲、評価の落差がありすぎだよ‥‥

ノクターンは、ステップ前のレッスンで、先生から「やるせなさ」と「行き場のない憤り」をもっと表現するようにと指導を受けた。今、思い出すと、課題曲を途中棄権してしまった「やるせなさ」と「行き場のない憤り」が、体からにじみ出ていたのでは。それが高評価の理由だったりして(苦笑)。

さて、昨日はフィンガートレーニングのレッスンだった。が、あらかじめ、先生に「ピティナ・ステップで大崩落(前編)」の記事URLをメールで送っておいたので、フィンガートレーニングはお休みをして、「大崩落」の原因と対策を探る時間になった。教室に着くと、先生が紅茶とチョコレートを持って登場。いやはや、まるでカウンセリングです。すいませんです。

先生 「何が原因だったと思う?」
うさぎ 「そもそも、弾きこみが足りなかったのが一番だと思います。本番三回目のノクターンは、ちゃんと弾けましたから。三回は本番を経ないとちゃんと弾けないものだ、という考え方もありか、と」
先生 「まぁ、事故は往々にして起きるからね。私なんて、音大受験のときステージで転んで頭が混乱してしまって、課題曲、展開部抜きでいきなり終わってしまったし(笑)」
うさぎ 「でも、途中棄権は一番よくないです」
先生 「そうね、何があっても弾き通さなきゃ」
うさぎ 「ですが、今回は100%記憶が飛んでしまって‥‥」
先生 「私は、あるときから最初に作戦を立てるようにしたの。バッハの場合、だいたい崩れそうな箇所はわかっているから、『A地点で崩れたらC地点で復帰』『B地点で崩れたらD地点で復帰』とかね。この準備をしておくだけで、以後、まったく崩れなくなった」
うさぎ 「なるほど。私も本業の仕事では、長年の経験上、いろんな事故を想定して無意識にシミュレーションしてますね」
先生 「あと、私の友人のピアニストで、いきなり1オクターブ上でメロディーを入れてしまった人がいるけど、知らず知らずのうちに元の音程まで復帰させたり、プロは何とか着地させるわね。本番で、リピートを二回やって『あれ、ここさっき弾いてなかったっけ?』ってループした人もいるけど、とにかく最後まで弾きとおして着地させたりね」
うさぎ 「やはり、崩れたときの復元力ですね(飛行機事故で、ハドソン川に着水した機長は偉大だ)。あと、迷子になりそうになると、高声部のメロディーしかわからなくなったりします」
先生 「そんなの、あなただけじゃなく、みんなあるわよー。でも、そのときはソプラノだけでいいから、とりあえず前に進めるの。バス、テノール弾かなくても、ソプラノだけで何とか前進させるの」
うさぎ 「たとえ単旋律になっても、ですね」
先生 「あと、私の場合、本番の前はなるべく頭の中で、弾く曲を満たすようにしてる」
うさぎ 「よく、音大生がステージに出る前に客席でiPod聴いてますよね」
先生 「実際に聴かなくてもいいの。頭の中で一曲を通しで流すようにするの。会場への電車の中で何した?」
うさぎ 「電車の中でですか? 降りる駅を間違えないように、ホームの駅名を注意してました‥‥」
先生 「それは仕方がないわね(笑)。じゃ、一回、シンフォニアを聞かせてくれる?」
うさぎ 「は、はい‥‥」

なんて会話の後、おもむろにヤマハのグランドピアノの前へ。落ち着いてシンフォニアを演奏しました。ところが‥‥!!
えっ! 同じ箇所でまたもすっ転んだ! なぜ?

先生 「あぁ、わかった。息を詰めて弾いているわね。呼吸をしてないのよ」

あっ! 確かに。

先生 「無意識のうちに自信のない箇所で、息を詰めているのよ。じゃ、一度、歌って弾いてみて。ソプラノでもどこでもいいから、歌って弾いて」。

おっ! スムーズに弾けた。

先生 「でしょ。歌うと呼吸しなきゃならないからね。声を出さなくても口パクでもいいから、歌って弾くようにすればいいわよ」

うっ! 何だか「黒魔術」が解けたみたいだ。

私の場合、耳たぶが赤くなったり、心拍数が増えたりはしないので、緊張を自覚できないのだけど、確かに息を詰めて弾いていた気がします。そういえば、鼻歌交じりで弾いたときの方が気持ちがいいし、うまく弾けているような‥‥。

と、一時間ほどのカウンセリングで「白魔術」をかけていただき、家路についたのでした。

さてさて、ポジティブに総括しよう。

ショパンのノクターン第一番は練習を始めたのが昨年の初夏、約八ヶ月かけて、ようやく自分でも満足できるし、他の人が聴いても評価いただける演奏ができるようになった。

その原動力って、結局「レパートリー一曲一曲に対する愛情」ではないかな、と思ったりします。カエルの子はカエル、ウサギの子はウサギ。できの悪い自分のレパートリーが、最初からできのいい演奏であるわけないのです。

あるアドバイザーの先生が、こんなコメントを残していただきました。

「残念! でもシンフォニアを弾こうという気持ちが素晴らしい!!」

このステップをクリアすることが目標なら、10代の頃に弾きなれたメンデルスゾーンの舟歌や、ショパンの子犬のワルツを弾けばよかったのでしょう。でも、あえてバッハのシンフォニア変ロ長調にしたのは、「インベンション&シンフォニア」全30曲に対する、私なりの敬意と愛情なのだと思う(今、振り返るとね)。

今回、私を強烈に無視したシンフォニア、何だか反抗期の息子みたいなものですね。でも、ぜんぜん嫌になるのではなく、何だかこの曲、ますます愛おしくなりましたよ。負け惜しみじゃなく。

というわけで、四月中旬、再度どこかのステップで、この曲、再チャレンジしたいと考えております。‥‥しかし、最近、どこの会場も締め切りが早いんだよなー。


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