弟子が解説! 金子勝子先生の楽譜『指セット プラス ハノン』
師匠“実演”のメトードが楽譜になった
金子勝子先生に師事して以来、1日の練習前に必ず弾いている「指セット」。指をコントロールするためのメトードです。門下の生徒は全員、この「指セット」をやってます。
角野隼斗くんがどこかのYouTubeチャンネルで、「毎日練習しているメニューは?」と問われて、このメトードを披露しているのを発見したことがありました。その時は「隼斗くん(のレベル)でも、指セットをやっているんだ」と意外に思いました。簡単かつ効果があるので、きっと門下出身者は習慣になっているのでしょうね。
このメトードは長年、五線紙に写されておらず、長年、師匠が“実演”で生徒に教えてきたものです。そもそも「指セット」という名前も、私が師事し始めた2009年ごろにはなかった記憶が。当時、師匠は「私のメトード」とおっしゃっていた気がします。
昨年4月に楽譜として出版されたことを知っていましたが。この度、遅まきながら購入しました。
“実演”だったメトードが楽譜になるのは、ちょっと不思議な気分です。五線譜に浄書するとこんな風に記述されるのか…と。
ただ、どんな音楽も楽譜には表現しきれないもの。下の「重音」のメトードの場合、打鍵の後すぐに力を抜くところが大切なポイント。正しくこの「指セット」を使用するには、一度でよいので経験ある指導者の下、指導を受けることをおすすめします。
短時間で効果てきめん、必要最小限のメトード
全体の構成は、8曲の師匠のオリジナルメトードとハノンの厳選5曲からなっています。つまりたった13曲。
- 指セット Original 〜支えを作りコントロールできる指に〜
- 1)指の独立とレガート
- 2)連打
- 3)2と4の指のために
- 4)和音の跳躍
- 5)オクターブ
- 6)重音
- 7)声部の独立
- 8)語るレガート
- HANON 〜《厳選》ナンバー〜
- ハノン39番(スケール&カデンツ)
- ハノン40番(半音階)
- ハノン41番(アルペッジョ)
- ハノン52番(3度)
- ハノン60番(重音のトレモロ)
私は多くの生徒のレッスンに接しましたが、この他に、例えばチェルニーやモシュレスの練習曲を弾いているのを見たことがありません(例外はショパンの練習曲のみ)。まさに必要最小限なのです。
ただ、この楽譜の「本書の効果的な使い方」にも書かれていますが、以下の2つが重要。
- 1音1音集中して音楽的な表現を心がける
- フレーズの最後からフレーズの始めへの移行は特に丁寧に
1つ目の「音楽的な表現」というのは少々抽象的ですが、私なりに言い換えると「1音1音が美しい響きになっているか、弾きながら耳を澄ませる」こと。
2つ目については、ハノンのスケールであっても「始まり」と「終わり」を意識するよう注意されてきました。フレーズの連続によりメロディーが形作られるわけですが、そのためには1つ目のフレーズの「終わり」から2つ目のフレーズの「始まり」への意識が重要であると。
ですので、時間をかけるだけで集中力のない練習をするよりも、13曲のメトードのうち、2つ3つに絞った方が効果が得られます。
「指セット」私なりのアレンジと練習法
ここからは、私なりの「指セット」の使用法です。
1つ目。この楽譜ではオリジナルの8曲のうち、6曲が「右手」→「左手」→「両手」と練習を進めるよう指示されています。ただ、私のほか、長い期間、師匠に師事している多くの生徒は、「指の独立とレガート」「連打」は両手で、「2と4の指のために」と「重音」は右手と左手のみで練習しています。ある程度、コツがつかめたら全曲を「右手」→「左手」→「両手」でやる必要はないでしょう。
2つ目、だいたい1日20分程度で終わらせようとすると、13曲の中からいくつかをチョイスすることになります。私の場合、ある週は「指の独立とレガート」「2と4の指のために」をやると、次の週は「連打」と「重音」のように、1か月4週のローテーションで一巡するような練習をしています。
3つ目。『指セット』は基本的に長調だけなのですが、私は何となく物足りなくて短調でもやっています。「指の独立とレガート」を長調でやった後は、「2と4の指のために」は短調でやるといった具合です。
日々進化していく金子先生の「指セット」
楽譜・本という姿になると、これが完成された最終形と捉えられがち。ですが、師匠自身、この楽譜の冒頭に以下のように述べています。
数え切れないトライ&エラーを繰り返し検証してきたからこそ、自信をもっておすすめできる「指セット」です。
「指セットへの思い」より
私は10年以上師事しましたが、その間、師匠の「指セット」は常に変化しました。前回のレッスンで実演されたものと今回のレッスンが微妙に違っていたり、元に戻ったりして少々困惑したことも。
この楽譜が出版されてから1年になりますが、師匠はきっと新しいメトードを編み出し、ピアノの前で試されているはず。決して「聖典」のように捉えることなく、エッセンスを意識して使用することが大切かと。
うーん、そのためには、やはりよい指導者の下、使用法を教わることなんですよね。
楽譜を買って、最初に目についたのが「帯」に描かれた先生のイラスト。そっくり!
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