感想/あなたがピアノを続けるべき11の理由(インタビュー集)
本の情報
本の感想
1時間くらいで読めるピアノ関係者11人へのインタビュー集。読みやすい反面、内容は「薄い」です。
残念ながら、私はこの本からピアノを続けるべき「確信」のようなものを得ることはできませんでした。「続けた方がいい理由」ではなく「続けるべき理由」を期待したのですが。
価格が1,000円だったら納得できるかな。「1,300円か、うーむ」というのが率直な感想。
ただ、インタビュワーの飯田有抄氏いわく、この本の読者対象は、
- 「ピアノを続けようかどうしようか」と悩んでいる人(小学校高学年・中学生以上の、さまざまなバックグラウンドを持った人たち)
- 子どもにピアノを続けさせるべきかどうかと考えている親御さん
- ピアノ教室で指導されている先生方
なので、私のような大人のピアノ再開組に向けたものではありません。
ピアニスト、ピアノ指導者から、哲学者、落語家まで、11人のインタビューが掲載されています。以下、私のような「サラリーマンの大人再開組」が参考になった箇所をいくつか、まとめておきます。
ポイント
- 「自分が下手だと思うのは、いいものを聴き取る耳ができた証拠。」黒河好子(ピアニスト)
- 「認識を変えれば、練習時間やテクニックの問題は解決できる。」金子一朗(数学科教諭・ピアニスト)
- 「ピアノはいつやめてもいいし、いつ戻ってもいい。」秦万里子(音楽家)
本の概要
自分が下手だと思うのは、いいものを聴き取る耳ができた証拠。
上手に弾けなければ「私はダメなんだ、私には何もない」と落ち込む。(中略)ただし、いまの自分はダメだと思うことこそが、実は成長の第一歩なのです。ピアノの演奏に自信を感じられないということとは、逆を言えば、いいものを聴き取る耳を持っているということ。本物、正しいものを知っているということです。
黒河好子(ピアニスト)
この言葉は腹にストンと落ちました。ピアノを再開して、今の師匠に習い始めた当初は、何やら加速度的に自分が上手になっていくような気がしました。
しかし、再開して3年目くらいから、どんどん自分が下手になっていっているような気になります。この思いは今でも変わりません。なんだか、7、8年前よりダメになっている。まったく進んでいないと絶望的な気分に陥るのです。そして、ピアノから離れたくなる。
それはきっと、数多くのピアニストの演奏会に出かけたり、門下の優秀な生徒のレッスンを見たり、アマチュアのコンクールの本選で心に突き刺さる演奏を聴いたりしてきたことが、原因なのでしょう。よい音楽に囲まれて、耳が研ぎ澄まされたということかもしれませんね。
「うまくは弾けないけど、いい耳になった」とポジティブに考えたいものです。
曲を時間がたってから弾いたとき、「なぜあのとき、あんな音楽でしか弾けなかったのだろう。いまはもっと音楽的に弾きたいのに」と思えたときには、音楽の成長があった、つまり前進した、ということなのです。
黒河好子(ピアニスト)
これは子供のときに弾いた曲にもう一度取り組むと実感しますね。
私は今、モーツァルトの「トルコ行進曲」を練習していますが、最初にこの曲を弾いたのは中学1年生の時でした。発表会で「うまく弾いた」という思い出がおぼろげに残っていますが、実際には何も考えずに弾いていました。「今、もっと音楽的に弾きたい」と思うこと自体が、人生における前進なのでしょう。
認識を変えれば、練習時間やテクニックの問題は解決できる。
ピアノが一番上達する時期は10代の頃だと思われていますが、私が一番上達したと感じた時期は40歳を過ぎてからです。もちろん若い頃よりも肉体が日々衰えていくことを実感していますし、脳細胞は日々死滅しています。実生活のなかでは物忘れなでも増えています。しかし、ピアノに関しては別なのです。
金子一朗(数学科教諭・ピアニスト)
金子一朗さんは、高校の数学教師でもあり、現在は学校の管理職を務められています。プロピアニストはありますが、平日・昼間は私と同じサラリーマン。
40歳を過ぎてから、ピティナピアノコンペティションの特級部門でグランプリを受賞した人だけに「私が一番上達したと感じた時期は40歳を過ぎてからです」という言葉は、大人になってピアノ再開した人には福音です。
5回練習して弾けないところは弾くのをやめます。50回、100回と繰り返すことはしません。(中略)ではどうするかというと、弾けない理由を考えます。(中略)原因を見極めずに何度も機械的に練習を繰り返しても、そのときだけは弾けるようになることもありますが、時間が経つとすぐに弾けなくなってしまいます。しかし、弾けない原因がわかれば弾けるようになり、その状態は長く持続します。
金子一朗(数学科教諭・ピアニスト)
弾けない箇所は、「練習の回数が足りないからだ」「根性で弾いてみせよう」と思いがち。大人はまず立ち止まって、頭で考えないとだめですね。
親指に力が入っていないか? 指遣いは適切なのか? 腕の重さはコントロールできるか? ピアノを弾いている自分の後ろに立ち、自分自身を客観視する目線が大切なのでしょう。
ピアノはいつやめてもいいし、いつ戻ってもいい。
ピアノを続ける「べき」人なんて、どこにもいないのではないでしょうか。何事も、挫折していけないことなどないと思います。やめてみて、「しまった!」「やっぱりやめなければよかった」と思ったら、そのときに再開すればいいのです。
黒河好子(ピアニスト)
40歳でピアノを再開してから10年間が過ぎますが、私も何度も弾いたり、弾かなかったりしています。弾かないときは「たかがピアノ、されどピアノ」と逡巡します。
それに、100万円以上の出費で防音室を買ったり、ピアノのオーバーホール(弦の総張替え)を行ったりしたのでもったいない!という思いもあります。
だけど、演奏を職業にするのと違って、「弾きたいときに弾けばいい」くらいの距離感を持って付き合えることが、実は大人にとって幸せなピアノとの関わり方なのかもしれません。
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