ウィーン原典版への熱くて恥ずかしい思い出

「ウィーン原典版」って楽譜のシリーズが、音楽之友社から発行されたのは1980年ごろだったろうか‥‥と思って、音楽之友社のホームページで確認したら、1973年より日本語版が刊行されてました。

たぶん地元の楽器店にこのシリーズは並んでおらず、中学生になってカワイ楽器の梅田店や日本楽器(当時はヤマハって名前じゃなかった)の心斎橋店に出入りするようになり、初めてあの真っ赤な表紙を目にしたので、そのような誤解をしたんでしょう。

ウィーン原典版・楽譜

ウィーン原典版は、全音の赤・黄・青の帯のついたシリーズや、同じ音楽之友社の白い表紙のシリーズに比べると値段が高くて、中高生だった私には大変ぜいたくな楽譜でした。

あえていえば、近鉄電車で大阪から奈良に行くのに快速急行でなく、わざわざ特急料金が必要なビスタカーで行くようなものでした(所要時間はまったく変わらない)。彼女のバースデーケーキを、六甲、夙川まで阪急電車に乗ってわざわざ買いに出かけるようなものでした。

当時、ウィーン原典版には「ランクアップのピアノ生活」って香りを感じていたのです。

もっとも、このシリーズのコンセプトなんて知りませんでした。なんかよくわからないけど、京都の老舗の和菓子みたいに「この楽譜は、音楽の都、ウィーンの原典版でござる」って言われると、それだけで「ハハーっ!」とひれ伏す響きだったのです。

ちなみに音楽之友社のホームページには下のように説明されてます。

ウィーン原典版は、第一線の音楽学者と名演奏家の 共同作業から生まれた、理想的な楽譜です。

ユニヴァーサル・エディション(ウィーン)、ショット(マインツ)、音楽之友社が提携し、1973年より 日本語版の刊行を続けてきたウィーン原典版は、 21世紀に入ってなお、最も信頼される楽譜です。

作曲家の自筆譜や筆写譜、初版本、版下などを比較検討し、確実な出典に基づいて校訂・編集され、アシュケナージやエッシェンバッハ、クレーメル、ゲルバー、ブレンデルといった世界的な演奏家が、運指や解説を加えています。

たんに正確なだけではなく、作曲家の意図がより深く理解でき、演奏に適した楽譜、それがウィーン原典版です。

そうか‥‥そうだったのか(金田一耕助風に)。コンセプトを今日初めて知っただよ。

それはともかく、先週初めにウィーン原典版の「モーツァルトピアノ曲集4」ってのを楽天で注文したのですが、なかなか手元に届かない。「おかしいな」と思っていたら、今日、宅配便が無造作に家のドアの前に置かれていました。思わずムッとしました。憧れのウィーン原典版を、ニッセンやベルメゾンの通販カタログと同じように扱いやがって!と。

やはりウィーン原典版は通販で買ったらダメですな。ウィーン原典版たるもの、カワイ表参道か、銀座のヤマハ、山野楽器に出かけて、チェックのワンピースの娘が音楽之友社の白いシリーズを手にしたとき、「こっちの赤いのにしておきなさい」と、父がたしなめるようにして購入しないと(笑)。

なお、私が初めて買ったウィーン原典版の楽譜は、シューマンの「子供の情景」でありました(写真一番上)。あの頃は、教室の発表会で女子がショパンばっかり弾きやがるので、男子たるものシューマンだ!と何の根拠もなくいきがっておりました。

「ウィーン原典版でシューマンを練習してるオレ、結構イケてない?」と、自己満足に浸っていたのかも。アホです。若気の至りです。

とにかく、ようやく手元に届いて、よかったよかった。


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