金子勝子ピアノ教室、2010年発表会レポート(中編)
コンクールに比べると「結果」「評価」を意識しない分、楽屋での待ち時間は気が楽だ。私は第三部「高校・大学・社会人・指導者の部」の二番手。第三部の前に15分休憩があったが、今年は一般大学生の出演者がいないため、すぐに私の出番になった。
ステージに出ると、客席の最前列に、鍵盤うさぎのチャーリーズエンジェルの二人が座っているのが目に入った(三人のうち一人はもっと早い時間の演奏だと思っていて、用事があって帰ってしまった、と。私の連絡ミスで申し訳ない‥‥)。“チャリエン”の三人は10年以上にわたる仕事仲間の女性三人組。40歳でピアノを再開してからずっと観に来てくれている。会場にいると、ちょっとほっとする存在。
いすの高さを調整して、さーて弾こうかと鍵盤に触れようとしたら、なぜだかBの音をポーンと鳴らしてしまった。あちゃ! 何、これ、サイテー。後で客席で聴いていた生徒のお母さんに聞いてみたら、「ちょっと試しに音を出してみたのかと思った」と。いや、そんなわけないのですが、結果的にオーケストラの音あわせみたいになっちまった。Bの音だったけど。
気持ちを切り替えて、一曲目のクープラン「ゆりの花ひらく」を演奏。この曲は、ピアニッシモを生かしたいのだけど、結構、このホールは響く。どんなに弱音で弾いても、何だかメゾピアノくらいに聴こえる。音がよく回るのだ。客席で聴いて、どうなんだろう。リリカルには弾けたとは思う。自己採点78点。
次に、モーツァルトのピアノソナタ ト長調 K.V283
第一楽章、何だか打鍵がホワンホワン定まらず、小さなミスを連発してしまった。最後まで通したけど、モーツァルトの小さいミスって、欠けたボーンチャイナの食器みたいで、とても目立つんだよな。師匠からしつこく指導を受けた三度の重音のアーティキュレーションも、違ったところにアクセントを入れてしまったし。ま、通しただけでもよしとしよう。自己採点60点。
第二楽章は落ち着いて歌えたと思う。特に再現部からは、ちゃんとホールの響きを聴けるようになった。帰ってくる響きが耳に入るようになると、ピアノを弾くのがとても気持ちよくなるものだ。気持ちいい!と思ったら第二楽章が終わり、演奏終了。自己採点82点。
ステージを降りて最初に思ったこと。「あぁ、もう一回、弾かせてほしい!」。もう一度、弾けたら90点近い出来で弾ける気がする。ま、みんなステージを降りて同じこと考えるんだろうな。
本番はいつもあっという間に終わるものだ。
さてさて、自分の演奏は終わったことだし、じっくり他の門下生の演奏を楽しもう!と客席に向かった。第三部後半からは、ピアノ指導者、マスタークラス、プロピアニストと実力ある人の演奏がズラリと並ぶ。
以下、鍵盤うさぎの勝手なレポートです。
■ なつきさん(ピアノ指導者)
メトネルの忘れられた調べ第二集より「悲劇的ソナタ」op.39-5
ひとこと「セクシー!」。この曲、私の中では、ロシアの重戦車=ボリス・ベレゾフスキーと巨人=リヒテルの演奏のイメージが強い。なつきさんの演奏は、男性ピアニストの演奏と違って、響きがしっとり艶っぽいんですよ。何ていうか「愛した男が、父親を死においやった仇だった」って感じ。暗い情念の深淵、今度、彼女のブラームスを聴いてみたいと思った。
■ 美穂さん(ピアノ指導者)
ドビュッシーのアラベスク第1番、シューマン=リスト「献呈」
リハーサルでは「今年はぜんぜん練習ができなくて、いきなり発表会に出ること決まり、焦っています」と。ところがどっこい、実際に演奏が始まるとさすが!だった。ドビュッシー、めくるめく虹彩がつむぎだされ、光のゴブラン織りのようだった。こんなカラフルなアラベスクを聴いたのは初めてだ。
■ 朋子さん(ピアノ指導者)
リスト「ラ・カンパネラ」
リハーサルが同じ時間帯、本番の演奏を聴いたのは今日が初めて。出だしはちょっと慎重だったけど、途中からドライブ。終盤に向けてエンジンが入った。リストが似合うカッコいいママだな。他の曲も聴いてみたい。
■ 子牛先輩(小5)
シューベルトの即興曲 op.90-3、ショパンのロンド op.16
進化のスピードという点では門下ナンバーワンだと思う。個人的にはシューベルトがよかったかな。喜びの気持ちをぐっと心の中に閉じ込めたような、味わい深さ。しかし、小学生でどうしてこんな表現ができるのよ。
■ まりさちゃん(中2)
ハイドンのソナタ第31番 変イ長調、ショパンのバラード第1番 ト短調
ステージに立つと華がある女子。「エースを狙え」の緑川蘭子タイプ。日本人ピアニストよりも、ロシア、ウクライナ、ブルガリア等、東欧の女性ピアニストに近い感じ。バラードは、アグレッシブで奔放なスタイルが気持ちよかった。彼女、秘められた力を持て余している印象あり。化ける可能性大の原石。
■ 隼斗王子(中3)
ショパンのエチュード op.10-1、ソナタ第2番より第1・2楽章。
ハ長調のエチュードは5月に紀尾井ホールで聴いたときよりもはるかに弾き込んでいる。特に弱音の「引き算」が効果的になり、よりグレードアップした印象。ソナタの第2番も響きに振幅があって、とてもメリハリが利いていた。第3楽章を聴きたかった。いつもながら、中学生とは思えない演奏だ。
■ 彩花姫(高2)
バッハのトッカータ ホ短調 BWV914、ショパンの革命のエチュード他
東京芸大高校の2年生。今年、私が紀尾井ホールの記念演奏会で弾いたバッハのトッカータを演奏。私のトッカータに比べると、装飾音を生かして即興的なニュアンスをかもし出していた。特にアダージオは、チェンバロの軽い即興を思わせる洒落た感じ。若女子らしい、キラリとしたトッカータだった。
■ 亮さん(大学生)
ショパンのピアノソナタ 第3番 ロ短調
亮さんの本番を聴くのも初めて。慶応ボーイらしい上品な風貌ながら、なかなか情熱的なショパンを演奏される。第四楽章の第一主題、ダンパーペダルをかなり抑えて弾いていた。この地を這うようなイメージが、ダイナミックな後半への伏線になり、とても効果的だった。白組のトリは若手ホープ、氷川きよし!って感じだった。
■ 好美同志(ピアノ指導者)
スクリャービンのソナタ第2番「幻想ソナタ」 嬰ト短調
紅組のトリは、今年のPTNAグランミューズA2部門で優勝の好美さん。彼女のピアニシモの美しさは門下ナンバーワンだと思う。今日も、メロディーが空中に消え入るようなピアニシモが、幻想ソナタの作風にぴったりだった。好美さんはすでに何回も演奏を聴かせていただいているが、後期ロマン派の爛熟した楽曲がホントお似合いだと思う。
以上、後半戦の感想でした。
上はロビーにて好美同志、彩花姫と。この写真だけ見ると三人の関係性がわからにゃい。