新垣隆氏のアナリーゼセミナーを受講した

2015年8月7日


今年は“時の作曲家”になってしまった新垣隆氏。今日は、笹塚のBlue-Tで行われた新垣先生のアナリーゼセミナーに出かけた。Blue-Tのピアノコンペティションの審査員として、これまで何度かお顔は拝見したものの、しっかりとお話を聞くのは初めてだ。

セミナーは午後1時から3時までのプレセミナーと、3時30分から6時30分までのアナリーゼセミナーに分かれていた。基本的な機能和声の知識は持っているので、私は3時30分からのアナリーゼセミナーに参加した。

教材は、ソナチネアルバムに収録されているクーラウのソナチネ 作品20-2、バッハのフランス組曲第5番のアルマンド、そしてベートーヴェンのピアノソナタ作品2-2。

なかなかユニークなセミナーだった。

そもそもソナタ形式とは?

まず、「ここが展開部で、ここが第一主題で」といった実務的なレクチャーというより、「ソナタ形式っていったい何だと思いますか?」といった“教養”としての立ち位置がよかった。「皆さん、ベートーヴェンのソナタ作品2-2の第一楽章、ここの第一主題ってわかりますか? 私、わからないんですね」と新垣先生。

これは悲愴ソナタでも言えることだが、導入のような数小節を第一主題と捉えるか、その後のメロディーを第一主題と捉えるか、意見が分かれるところ。ただ、そんなことよりも重要なのは、ソナタ形式が「カデンツをベースに組み立てられた構造物である」というざっくりとした捉え方こそ本質だということを、先生はおっしゃりたかったのだろう。

ベートーヴェンから始まるロマン派

続いて、ベートーヴェンのピアノソナタ作品2-2の第一楽章の第2主題について考察。

第1主題の部分に比べると和声的に揺れており、ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルテ」の共通性について、ピアノを弾いて実演された。確かに似ている。ベートーヴェンの初期のソナタといえば、まだまだ古典派ソナタのスタイルに忠実なイメージがあったが、早くも作品2-2でワーグナーへと続く“和声の揺れ”が感じられることは驚きだった。ロマン派の出発点が垣間見られた。

借用和音の効用と転調の関係についても述べられたが、さすがにちょっと難しかった。私の場合、コードネームによる分析が中心なので、「借用和音って代理コードと同じだったけ」とちょっとあやふやな理解になってしまった。

アナリーゼの常識を疑ってみる

3時間のセミナーを受けて印象的だったのは、新垣先生が「私だったら、ここの後はこのようにしたいかな」と、原曲に改編を加えて試してピアノを弾かれたところ。アナリーゼとは「作曲家の意図を忠実にたどるには」と思い込んでいる節がある(私はそうだった)。その点、新垣先生は「自分だったらこのメロディーの後、どういう展開に作曲してみたいだろうと、自分なりにいろいろ探ってみるのも大切」とおっしゃっていた。これは面白い。

どうもアナリーゼというと「作曲家の意図は? この和声は? 形式は?」とある種閉鎖的な思考になりがちだ。そうではなく、自分だったらこういう意図で、こういう和声で、こういう形式にしてみようか」と開放的に考えることで、逆に「だから作曲家はこうしたんだ」という点が見えてくる。

こういうアプローチを知っただけでも、今日のセミナーに参加してよかった。

新垣先生、「この後の展開部は宿題にしましょうか? “指示書”はないですよ」という自虐的なジョークもクスっと笑えた。


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