「暁の歌」とシューマンの晩年について
シューマンで一番好きなピアノ曲は、長い間、クライスレリアーナでした。初めてクライスレリアーナを聴いたのは、1982年、仲道郁代さんが日本音楽コンクールで第一位になられた本選での演奏でした。当時、私は中学3年生。こんなドラマティックな楽曲があるのか!と。一時期、シューマンばかり聴いてたっけ。
「暁の歌」に共感
「暁の歌」Op.133は、1854年、彼がライン川に身を投げる半年前に書かれた作品で、初めて耳にしたとき「半透明な青白さ」に背筋が寒くなりました。「暁の歌」は5つの歌からなりますが、第1曲ニ長調が好きです。
シューマンは躁うつ病を患い、ライン川に身投げした後、44歳から亡くなる46歳までを精神病院で過ごすわけですが、最近、彼のこの2年間が気になり、いろいろと調べてみました。ところが、暮らしぶりがうかがえる記述はなかなか見つかりませんでした。
音楽之友社から1993年に『シューマン―音楽と病理』(岸田緑渓著)
「針が振り切れる集中力」の喪失
「作ること」には、メーターの針が振り切れたような集中力が必要です(演奏ももちろんですが)。かつて自分にあった振り切れるほどの集中力をなくしてしまっても、「作ること」が自分のアイデンティティである以上、作らざるをえない。そんなシューマンの苦しみと葛藤が、この「暁の歌」Op.133から痛いほど感じることができます。
今日は仕事から帰宅して、ご飯も食べず風呂にも入らず、「暁の歌」の第1曲を弾いてみました。悲しいけど(また、おかしいけど)、何だか今、一番いい演奏ができる気がします。