「公共事業」と「官僚主導」の思い出
たまには政治のお話でも。
実は、数年前に霞が関のある省庁の仕事を手伝いをしたことがあった。小学生向けに、ある政策を啓蒙していくウェブサイトの立ち上げプロジェクトで、私は、情報通信系の委員として公聴会のメンバーに声がかかったのだ。政策そのものはとても共感するものだったし、省庁の仕事なんて関わったことがなかったので、興味津津で出かけた。
当然ながら、民間企業との仕事の進め方の違いにとても驚いた。
まず、時間に対する考え方の違い。このサイト、20ページそこそこと小さなウェブサイトなのだが、企画からサイト公開まで1年半以上かけている。俗にドッグイヤーといわれるIT業界では、考えられないスピードの遅さだった。この点は、立ち上げの連絡をいただいた際、「ありえないスピード感ですね」と、嫌みっぽく言ってしまった。
次に、公聴会のメンバーは大学教授、学術書籍の編集者、現場の調査員、そしてITの“プロ”の私の4人だった。そのほか、司会役を務める役人(霞が関の官僚)が2名、実際に手を動かす制作会社の取締役がいた。
初めてミーティングをした際(つまり顔合わせ)、まず公聴会の議長を決めることになった。司会の役人から「本日の議長は、●●教授にお願いしたいのですが、異論はないでしょうか?」と一言。ま、年齢からも、キャリアからも妥当だし、よくわからないので残りのメンバーは「はい」とお返事。その後、大学教授のお話を30分あまり聴いた。議長就任は、あらかじめ打診されていたのだろう。ゼミの講義のようだった。
その後、企画に対する意見を求められた。ただ、出席者それぞれの守備範囲があまりに違うので議論にはならず、感想を述べただけでこの日は終了。
で、2か月後くらいに二回目のミーティングに呼ばれた。そのときには、企画詳細とサイトのラフが出来上がっており、「これで行きたいと思います」「はい、どうぞ」「おしまい」って感じで即終了。謝礼は、2回で10000円ほどいただいたっけ。ま、交通費だな。
それから一年くらいして、サイトが立ち上がったという連絡が制作会社からあった。サイトの出来栄えは、よくも悪くもない。毎日小学生新聞や朝日小学生新聞みたいな感じだ。
ただ、このサイトへの効果的な導線がないので、誰も見に来ないだろうことは、ウェブマーケティングの「いろは」をかじったことがある人なら誰でもわかる。SEO(検索エンジン最適化)についての意見も述べたが、あまり参考にならなかったようだ。
ま、一言でいうと、ウェブ上に誰も利用しない公共施設が建設されたようなものだ。
そのとき、はたと気がついた。
あ、これが噂の「官僚主導」というものか!
お、これぞ「公共事業」ではないか!
事業の立ち上げが予算化されているのではなく、サイト“建設”が予算化されていたのだろうな、と。そう考えると、なんだか制作会社が土建屋に見えた。まさか、制作会社に官僚が天下りしているとは思えない……。
なんてこと体験したので、私は民主党政権にちょっと期待をしている。
きっと、文部科学省のクラシック音楽振興プロジェクトにも、きっと似たようなものがいっぱいあると思う。