「熱情ソナタ」を弾く少年への勝手なアドバイス
昨夜は、夜9時からレッスンだった。今週は火曜にコンクール向けのホールレッスンがあり、金曜は発表会向けの教室レッスン。8時に仕事を終えて、8時40分ごろに先生宅に到着した。
中学1年生男子が「熱情ソナタ」を弾いていた
私の前は中学1年生の男の子。ベートーヴェンの熱情ソナタ、第3楽章をレッスン中だ。お母さんらしい女性(顔がそっくりだし)も同席し、先生の指示を熱心に楽譜に書き込んでいらっしゃる。
年末の門下発表会のプログラムを見たとき、中学生の部が最初に目に留まった。昨年は2人だけだったが、今年は5人が出演。中でも男子が楽しみだ。熱情ソナタ、月光ソナタ、ラ・カンパネラと、身を乗り出して聴きたいラインナップだ。
しかし、まぁ、中学1年生で熱情ソナタとは! 第3楽章、ラストのテンポが一段と速くなる箇所もやすやすと弾きのけている。早熟な男子である。
ただ、先生はしばしば少年の演奏をストップ。無窮動の曲でありながらも、しっかり歌うことを要求する。「ツェルニーになってはダメ!」と。確かに、彼のテクニックをもってすれば、ツェルニーの練習曲を、楽譜に書かれた超アップテンポの指示どおり弾けるに違いない。
また、先生いわく、「激しい怒りとか、どうにもならない思いを出さなきゃ」とも。
うーむ、難しい指摘だな。傍で見ていると、少年は「激しい怒りとか、どうしようもない思い」が具体的にイメージしずらいのかな、と思った。
「怒り」「憤り」は古典的文芸小説で学べ!
ま、女性の先生やお母さんがいる手前、アドバイスしにくいのだけど、私は「元男子」として、冬休みの課題図書に武者小路実篤の『友情』を読むのをおすすめしたい。ずっと恋こがれていた女のコを、親友に取られちゃう話だ。私、中学一年生のとき、この小説を読んでかなりブルーになった。
『友情』の主人公の野島君はね、
彼は杉子と夫婦になることを考える、それは楽園にいることを考えるようなものだった。新聞を見ても、雑誌を見ても、本を見ても、杉と云う字が目についた。そして目につくとはっとした。
武者小路実篤『友情』より
ってくらいに、杉子ちゃんのことが好き。なのに、杉子ちゃんは主人公の親友の大宮君のことを好きになってしまう。野島君は、友情と失恋の狭間に苦しみ、もがきながら、最後は「仕事で親友と決闘しよう!」と誓うのだ。
徹頭徹尾、童貞パワーが炸裂!って小説なのだけど、熱情ソナタの第3楽章は『友情』を読んでから楽譜を読むと、先生のいう「激しい怒りとか、どうしようもない思い」ってのがわかると思う。
‥‥ま、私のような中年男性になると、「おいおい、なんで仕事で決闘!なんだよ。早く、次の女子に行けよ」なんて思うようになるけどね。
あと、ツルゲーネフの『初恋』なんかもいいぞ。この小説は、40歳を過ぎた私のような中年男性の少年時代の回想なのだ。
1833年夏。16歳の少年ウラジーミル・ペトローヴィチは、モスクワ市内の別荘で両親とともに暮らしていた。ある日、隣にザセキーナ公爵夫人一家が引っ越してくる。その日の夕方、ウラジーミルは垣根越しに見た公爵令嬢、ジナイーダに一目惚れする。ジナイーダへの想いは日々募るばかりだが、ある時、ウラジーミルはジナイーダが自分とは別の男性に恋に落ちたことに気付く。その男性とは、ウラジミールの父親だった…。
ツルゲーネフ『初恋』(Wikipediaより)
物語の最後の方で、自分の父親が、馬のムチで憧れのジナイーダをピシッって叩くシーンがあるんだけど、私、このシーンを初めて読んだとき(高校生の頃だったっけ)、怒りのあまり頭の中が『熱情』第3楽章状態だったな。
前田敦子と赤城リツコで妄想を炸裂!
小説『友情』と『初恋』の時代背景がリアリティがなかったら、例えばこういうのはどうだろう?
隣のクラスのAKB48の前田敦子似のカワイイ女子(弓道部所属)が、実は援助交際していた! しかもクラスの男子で最後に知ったのはオレだった!
‥‥本筋から離れるが、私は娘がいたら弓道をさせたかったのです。
『新世紀エヴェンゲリオン』の赤城リツコっぽい大好きな保健の先生が、PTA会長(実は親友の父親)と腕を組んで歩いているところを、鶯谷で見かけてしまった!
‥‥まっとうな中学生が鶯谷なんて行かないだろうけど。
少年よ、どうだ? 「激しい怒り、どうしようもない思い」が沸きあがってこないか!
ちなみに、私が『熱情』第3楽章を弾くなら(弾けないけど)、こんなのイメージする。
前の経営陣が手を出していたデリバティブ金融商品の大規模な負債が、役員になった途端に発覚! 仕方なく処理した特別損失を、株主総会で、一株しか持っていない株主(しかも事件発覚後に購入)からガンガンに責められる。
あぁ、「激しい怒り、どうしようもない思い」が沸きあがってきた!