フーガ(文庫クセジュ) を読んだ
著者/マルセル・ビッチ、ジャン・ボンフィス
翻訳/余田安広 監修/池内友次郎
発行・/白水社
対位法の教科書やJ.S.バッハの平均律の解説書は数あれど、この新書、それら“実用書”とは一線を画している。
そもそもフーガはどのように生まれたのか?
フーガはどのようにしてJ.S.バッハに行きついたのか?
J.S.バッハ以後、どのような道のりを歩んだのか?
いわばフーガを通して見た、西洋音楽史の概論となっている。
1986年刊。著者マルセル・ビッチは、フランスの作曲家でパリのコンセルヴァトワールの教授(当時)……この本を読むまで、存在を知らなかった。
彼が一番言いたいこと。それは、「フーガとは極めて自由な形式である」ということ。え!フーガって自由なものなんだ? ここが一番新鮮な驚きだった。
フーガって、厳格な形式やルールを想像していないだろうか? 著者いわく「フーガとは主題、主唱からはじまる、模倣に基づいた対位法的な展開」以外の何物でもないと。すごく簡単にいうと、「最初にメロディーを歌って、次にメロディーを多少アレンジをして、属調あるいは下属調でハモッて歌えば、これもフーガ」ってことだ。
J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集が、フーガの頂点にあることは疑いはない。だが、J.S.バッハの作品群が、「フーガ」という言葉に、高尚で、知的で、難解なイメージを与えてしまった罪はあるかもしれない。
本書では、15、16世紀のシャンソン、モテットから、20世紀のベルク、バルトーク、メシアンまで、数多くのフーガを豊富な譜例で解説している。J.S.バッハのみを聴いて、フーガを知ったつもりになるのは、ブダペストの街中を流れるドナウ川だけを見て、ドナウ川すべてを語るようなものだろう。