ビートルズを通して考える「平均律第2巻第24番」
3月に、『“pre1750”~モダンピアノ愛好家によるバロック音楽コンサート2014』というイベントで平均律を弾きます。プログラムに掲載する楽曲解説の原稿締め切りが6日のため、早めに入稿。アマチュアなので、“鍵盤うさぎらしいジャンルを超えた解説”にしてみました。以下、掲載。
J.S.バッハ
平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第24番 ロ短調
J.S.バッハと「平均律クラヴィーア曲集」については、多くが語られているので割愛いたします。こちらでは、今回演奏する「第2巻 第24番 ロ短調 前奏曲とフーガ」について、私なりの解説を。
この前奏曲とフーガは、平均律全48曲の中でも異色の存在です。第1巻 第24番が最後を締めくくるにふさわしい壮大な楽曲である一方、第2巻 第24番は「番外編」「おまけ」のような小ぶりな作品。前奏曲は二声、フーガは三声で書かれているので、少し大きめのインベンションとシンフォニアのようにも思えます。
ピアノ指導者・長岡敏夫氏は『新訂 ピアノの学習』(1972年・音楽之友社刊、絶版)の中で、この曲について次のように紹介しています。「最後のフーガにしては軽すぎる。バッハは“フーガ”の解体を予告し、これを茶化したような感じもする」と。第2巻 第24番の立ち位置について、示唆に富むコメントだと思います。
この第2巻 第24番に近い存在の曲って何だろう?と、これまで出会ったさまざまな音楽に思いを巡らしたところ、ビートルズの事実上のラストアルバム『アビー・ロード』の最後の曲「Her Majesty」をふと思い出しました。このアルバムのB面では、「You Never Give Me Your Money」から「The End」まで、8曲が連なる長大なメドレーが繰り広げられます。そして「The End」の後、若干のインターバルを置いて流れる、わずか23秒のおまけのような“鼻歌”が「Her Majesty」です。
アルバム『アビー・ロード』について、ポールとリンゴは「B面のメドレーは僕らの最高傑作のひとつ」と発言しています。ですが、その後に続く“鼻歌”で、ビートルズは自身を茶化して終わらせたのではないでしょうか。
ところで、「コンセプトアルバム」という言葉は、一つのテーマや物語に沿った楽曲で構成されたアルバムを指します。一般的に、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が史上初のコンセプトアルバムと言われています。アルバム『アビー・ロード』について、当時、ローリング・ストーン誌は「本作のB面のみで、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に匹敵する」と評しました。私は『サージェント・ペパーズ~』はビートルズにとっての平均律第1巻、『アビー・ロード』こそ平均律第2巻だと勝手に思っています。
平均律クラヴィーア曲集は、「うまく調律された鍵盤楽器で弾く24の調の前奏曲とフーガ」というテーマに基づくコンセプトアルバムでした。第2巻 第24番は、平均律における「Her Majesty」であり、バッハはビートルズと同じように、平均律を“鼻歌”で締めくくったのではないでしょうか。
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