感想/オーレリアン・パスカル&大崎結真演奏会

はじめての「かつしかシンフォニーヒルズ」へ

50周年演奏会でトリを素晴らしい演奏で締めてくれた大崎結真さん、一週間も経たぬ金曜夜、室内楽の演奏があるというので出かけました。フランスの新進チェリスト、オーレリアン・パスカル氏のリサイタルです。場所はかつしかシンフォニーヒルズ、このホールに出かけるのは初めて。

東京で働いて18年あまり、一時期を除き、職場はほとんど山手線の西側。江東区、葛飾区、江戸川区といった23区の東側エリアはあまり縁がありません。定時の17時30分に仕事を終えて、半蔵門線〜京成経由でホールのある京成青砥駅に向かいました。

シンフォニーよりも三丁目の夕日が似合う町だ

週末の夜ってことで、気分を仕事から音楽にシフトしようと、スクリャービンの幻想ソナタをiPhoneで聴きながら青砥に向かいました。シンフォニーヒルズ、“交響曲の丘”ですからね。Webサイトで地図を確認すると駅から「シンフォニー通り」でアクセスするらしい。“交響曲通り”かぁ。

で、初めて青砥駅で下車しました。

……いやー、なんというか……すごくローカルな下町でびっくり。大阪の実家がある町を思い出した。

スクリャービンの幻想ソナタよりも、長渕剛の「とんぼ」とか「しゃぼん玉」とか口ずさみたくなりましたよ。

俺はこの街を愛し、この街を憎んだ
死にたいくらいに憧れた東京のバカヤローが

で、駅の階段を降りると、ヨハン・シュトラウス像があるんですね。シンフォニーヒルズへのランドマークとして建立されたと思うのですが、足元でギャルはたむろしてるし、そばでガールズバーのリクルートをやっているしで、シュトラウスおじさん完全に浮いてますがな。「酒盛り」「寝泊まり」禁止の張り紙も。

開演まであまり時間がないので「シンフォニー通」を探しました。「シンフォニーヒルズ →」という道案内はあるものの、「シンフォニー通」っぽい道が見つからない。iPhoneでGoogle Mapを開いて確認すると、やっぱりこの道で間違いないし。

日が暮れかけた“ただの道”を心細く歩いていると、とてもいい感じのお豆腐屋さんが。ここ「シンフォニー通」じゃなく「三丁目の夕日通」の方がいいのでは、と思った。葛飾に「シンフォニー」と「ヒルズ」は無理があるよ。「かつしか三丁目の夕日劇場」ってどうでしょう。なかなかいいネーミングだと思うのですがね。

駅から10分ほど歩いてようやくシンフォニーヒルズに到着しました。

かつしかシンフォニーヒルズには、モーツァルトホールとアイリスホール、大小2つのホールがあります。今回は室内外なのでアイリスホール。約300席の小さなホールで、内部は木目を生かした温かい雰囲気でした。

座席は7列目の真ん中。ステージの位置が高く、演奏者に目をやると、ちょっと顔を上げなければなりませんでした。後ろの座席にした方がよかったかも。

緊張感あるインタープレイに魅せられた

前置きがずいぶんと長くなってしまいました。

まず、チェリストのオーレリアン・パスカル氏についてご紹介(KAJIMOTO アーティスト紹介より)。

2005年に弱冠11歳で、パリ市主催の第1回ロストロポーヴィチ・ジュニア・コンクール入賞。2011年にはトゥールーズのアンドレ・ナヴァラ国際コンクールにて、最も優秀な新人としてギュイ・ボヌマン賞を贈られた。ヘルシンキで行われた第5回パオロ国際チェロ・コンクールで第2位に輝き、その演奏は審査員――アルト・ノラス、堤剛、ルイス・クラレット、マリア・クリーゲル、イヴァン・モニゲッティ――より、18歳という若さながら稀に見る力強さとこの上ない優雅さを併せ持つと絶賛された。とりわけその優れた特徴は、2013年4月に行われた同コンクールの決勝で、ジョン・ストルゴーズ指揮ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団とデュティユーのチェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」を共演した際に大いに発揮された。2014年11月にはエマニュエル・フォイアマン・グランプリで第1位に輝き、エルンスト・トッホのチェロ協奏曲の演奏を賞賛され、協奏曲賞と聴衆賞も同時に受賞した。

音楽一家に生まれ、パリ、バーゼル、インディアナ州ブルーミントンでヤーノシュ・シュタルケルのマスタークラスを受講。プラード音楽祭アカデミーでフランス・ヘルメルソン、ボーヴェでピーター・ウィスペルウェイからも指導を受けた。現在、パリ国立高等音楽院でフィリップ・ミュレールに師事。

2012年にクロンベルク・アカデミー(ドイツ)に参加し、フランス・ヘルメルソンのもとで再び研鑽を積んだ。翌年7月にはヴェルビエ音楽祭にも出演。

昨夏には、アルビの室内楽祭「トン・ヴォワザン」、ソー公園オランジュリー音楽祭、カレンザーナ音楽祭等に登場。

2014年にはラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭(室内楽公演)、モンペリエ/ラジオ・フランス音楽祭(4公演)、モンフォール=ラモーリーのレ・ジュルネ・ラヴェル、ソー公園オランジュリー音楽祭等に出演。またセセッション・オーケストラとの共演でカイヤ・サーリアホの作品を集めたデビューCDのレコーディングも予定されている(『チェロ協奏曲』『チェロ独奏のための7つの蝶』)。

現在、シャルル=アドルフ・ガン製作による1850年製の楽器を使用。

プログラムは下の4曲。

  • ドビュッシー/チェロソナタ ニ短調
  • グリーグ/チェロソナタ イ短調 Op.36
  • (休憩)

  • ブラームス/チェロソナタ 第2番 ヘ長調 Op.99
  • ポッパー/小さなロシアの歌による幻想曲 Op.43
  • ソナタ3連発というプログラムが意欲的! クラシック音楽が好きな人にはたまらないプログラムだけど、裏を返すと初心者には敷居が高いプログラムかもしれません。実は私、ソナタ3曲はCDで耳にしたことがあるものの、生で聴くのは初めて。ポッパーに至っては、作曲家の名前さえ知りませんでした。

    楽曲が印象的だったのはドビュッシー。教会旋法のメロディーって、チェロで歌うとこんなに美しいものか、とうっとりしました。ドビュッシーのピアノ曲って、「映像」や「前奏曲集」における倍音に響きにどうしても耳が行きがち。この曲は、どこかしら、フレンチバロックへの憧憬と尊敬を感じるソナタでした。ただ、ピアノでは構造上難しい、チェロによるポルタメント(ある音から別の音に移る際に、滑らかに徐々に音程を変えながら移る技法)も節度をもって表現されていました。面白かった。

    一番惹かれた演奏はブラームス。「ピアノとオーケストラの対比ではなく融合」である彼のピアノ協奏曲と同じく、まさにチェロとピアノによる融合されたソナタ。短期間で合わせたとは思えないほど緊密なインタープレイに、前のめりになりました。特に第3楽章、チェロと、ノンレガートで弾くピアノの左手ベースラインは非常に緊張感があり、魅せられました。

    ポッパーは、ピアニストにとってのショパン、バイオリニストにとってのパガニーニ的存在とのこと。わー、知らなかった、恥ずかしい。「小さなロシアの歌による」とタイトルにありますが、私が聞く限り、クレズマー音楽によるヴィルトゥオーゾな変奏曲でした。目の前で見るチェロの超絶技巧に息を飲みました。下のリンクから演奏動画をご覧ください。

    Aurélien Pascal, Révélation Classique de l’Adami 2014 – David Popper, Fantasy on little Russian song

    告知不足でしょ!

    しかしなぁ。

    何が残念って観客が少ない! 300席の座席で4割くらいだっただろうか。新進チェリストとはいえ、身長185センチのイケメンフランス人だし、プログラムは気合入っているし、ピアニストもソロとして十分に相対せる人なのに。告知不足としかいいようがないです。

    私も、たまたま大崎結真さんのWebサイトを見て知ったわけで。

    チラシのクレジットを見ると、主催は葛飾区文化施設指定管理者(すごい団体名だ)、後援は葛飾区、葛飾区教育委員会とあります。

    座席の半分は、葛飾区民を無料招待してもよかったのでは(もちろん、しているのかもしれませんが)。主催者は、この観客数をどのように総括するのでしょうか。演奏家ではなく、企画と広報と販促に課題があるように思いました。

    このデュオ、このコンサート一回きりだそうで。うーむ、何だかもったいない。


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