映画『キスして。』、今さら感想を書いてみる
ちょうど1年前に見た映画。その日は、仕事が早く終わって、なんだか映画を観に行きたくなり、映画上映検索サイトで「ちょうどこれから近くで上映が始まる映画はないものか」と探して見つけた作品。場所は新宿の「K`s cinema」。インディペンデントな作品を中心に上映する、小さな映画館だ。
エレベーターを降りると、入り口で同世代の女性にニコリと挨拶された。私を誰かと間違ったのかな?と思ったら、映画が始まり、この映画の監督であり主演である、ほたるさんだと分かった。
映画監督・ほたるは、女優名・葉月蛍として、20年前からピンク映画で活躍する女優。彼女が五年間かけて作り上げた作品が、この『キスして。』だ。以下、解説とストーリーを公式サイトより転載。
解説
“いるだけで映画になる女優” ほたるの初監督作品。
瀬々敬久、サトウトシキ、小林政広、井土紀州、沖島勲……。
日本映画のそうそうたる異才に愛された女優・ほたるが5年かけて撮りあげた傑作。わずか三十数シーンしかない、じっくり見つめられた場面は、
ほたる、伊藤猛、内倉憲二などが演じる登場人物たちの
言葉にならない心の風景を浮き彫りにしていく。ストーリー
「好きな人ができました」。女は夫に告げる。
20歳の時に年上の男と結婚し、あれから15年が経ぎた。
女は、いま、新しい恋人と暮らし始める。窒息しそうな毎日に立ち止まり、普通に歩きたいと思うようになった。
夫と亡くなった父親の影が重なる。ふわふわしていて、何だか泣きたい。
あなたのせいじゃない。自分勝手でごめん。
「長年連れ添った年上の夫との生活に飽きた中年女性が、若い彼と同棲を始める」、陳腐といえば陳腐、それだけのストーリーだ。
ところが、実際に上映が始まると、アマチュアのピアノ演奏のような独特の味わいがあって、映像に見入ってしまった。同じテーマを扱っても、東海テレビ制作の昼の連続ドラマだとドロドロのやりとりが繰り広げられるのだろうが、淡々と自然体に描かれる映像は、女性監督だからだろうか。主人公が行きずりの男性と行う路上でのセックスシーンも自然でリアル。演技をまったく感じさせなかった。
さて、この感想を1年経って今さら書こうと思ったのは、年上の夫役を演じていた俳優の伊藤猛氏が、今年亡くなったことを知ったため。彼の演技はこの作品でしか見たことがない。なので、作品の中、主人公の女性が出て行った後、アパート一人暮らしで亡くなったような気がしてならない。熟年に近づいた自分を、どこか投影してしまう夫役だった。
そういえば、白いワンピース姿でほたるさんが、林の中で玉子を溶くシーンが印象的だった。あれは、専業主婦を暗示しているのだろうか。不思議な魅力がある映画だった。