感想/ユリアンナ・アヴデーエワ演奏会@所沢

9月末の上原彩子さんのリサイタルに続いて、今回も所沢市民文化センター・ミューズへ。私にとって聴くホームグラウンドは所沢ミューズのアークホール、弾くホームグランドは杉並公会堂小ホールになりつつある。秋の気持ちいい風を切ってバイクで所沢まで出かけた。ホールのある航空公園周辺は、微妙に紅葉が色づき始めていた。

さて、前回2010年のショパン国際ピアノコンクールの覇者、ユリアンナ・アヴデーエワさん。生で聴くのは今回が初めてだ。2010年の本選結果については、私のアマチュアピアニスト仲間の間では評価が割れたが、実際にワルシャワでライブを聴いた師匠は、「彼女のリズム感が圧倒的だった」とおっしゃっていた。

プログラムは下記。

ショパン/ノクターン 第20番 嬰ハ短調(遺作)、第16番 op.55-2
ショパン/幻想曲 ヘ短調 op.49
ショパン/4つのマズルカ op.17
ショパン/ポロネーズ 第5番 嬰ハ短調 op.44
(休憩)
プロコフィエフ/ピアノソナタ 第8番 変ロ長調 op.84「戦争ソナタ」
(アンコール)
チャイコフスキー/瞑想曲 op72-5
ショパン/華麗なるワルツ op.34-1
シューベルト/3つのピアノ曲 D.946より第3番ハ長調

今回、初めて二回席でピアニストの顔が真ん前に見える座席に座った。ピアノからの音が直接すぎて、響としてはあまりいい席ではなかったが、一流ピアニストの「弾き方」を見るにはとても参考になる位置だった。

さて、リサイタルの感想。

ステージに入ってきた第一印象は、「想像していたよりも華奢な女性だな」だった。アーティスト写真で見る顔立ちが彫りが深いのと、何度か聴いたネット上での演奏で、もっと筋肉質の女性ピアニストのイメージを持っていた。パンツルックで颯爽と登場する姿は、エレーヌ・グリモーに似ていた。

正直、最初のノクターンの二曲は、ホールの響きを確かめるための「前奏曲」だったのか、「ん、こんなもん?」という印象だった。二曲目の幻想曲から本領発揮。この曲を弾きつくしているのだろう。完璧なテクニックによるダイナミックな幻想曲だった。真ん前から見られたので、特に気になったのは、肩幅は狭いのに両手の激しいオクターブの箇所でも、肩が落ち、余裕で両手が左右に伸びていく。「ピアノは体格ではなく、弾き方だな」ということを改めて感じる演奏スタイルだった。

この日のプログラムで、一番感動したのはマズルカだった。リズム感が今までに聴いたピアニストのマズルカとはまったく違っていた。ある時はウィットに富んで、ある時は沈んだ雰囲気で。「マズルカは舞曲なのだ」ということを思い知らされた。いやはや「スラブの生活環境で育たないと、このリズム感は出せないんじゃないかな」と、マズルカを弾くのが嫌になってしまいそうな素晴らしい演奏だった。

休憩の後は、プロコフィエフのソナタ8番。こちらも、憂いのある歌心がいっぱい。男性ピアニストとは一味違った“素敵な”という形容詞がぴったり、優雅な演奏だった。彼女の雰囲気にとてもマッチしていた。

アンコールは、通常、ほっと一息できる演奏かと思いきや、本番同様に気合いの入った演奏。特にショパンの華麗なるワルツ op.34-1は、エンターテインメント性あふれるスリリングな演奏だった。

今日、友人に歴代のピアニストなら、誰が一番近かった?と訊かれて答えに窮した。うーん、似ているピアニストが思い浮かばない。マズルカを聴く限りにおいては、アルトゥール・ルビンシュタインだろうか。とにかく花も実もある個性的なピアニストだ。


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